ごはん屋ななつぼし 藤井朋枝さん
北条町駅より徒歩7分、大通りから1本それた道を歩いていくと、水色の旗に出会う。お昼どきには絶えず話し声や笑い声が聞こえてくるこのお店は、藤井朋枝さんが店長を務める「ごはん屋ななつぼし」だ。
入り口横置かれた黒板には、週ごとに替わる「ななつぼし定食」のおしながきが書かれている。読んでいると、気の早い腹の虫が ぐう、と急かし出した。
いらっしゃいませ、と出迎えられながら店内を見回せば、ずいぶん広々とした空間がとられていることに気が付く。社会福祉法人「ゆたか会」が店舗施設を運営していることもあり、車いすやベビーカーでも気軽に入れるバリアフリーの工夫がなされている。


手づくりのメニュー表を開き、まず目に飛び込んでくるのは「今週のななつぼし定食」。1日25食限定のこの定食が「ごはん屋ななつぼし」の看板メニューだ。
わたしたちがうかがった、とある夏の日のおしながきは以下の通り。
- 玄米ごはん or 白ごはん
- 青なすと大豆の豚つくね焼き 夏野菜添え
- モロヘイヤのお浸し
- はりまるのポテトサラダ
- かぼちゃの冷静ポタージュ
- つるむらさきの味噌汁
- 露地メロン(ロジタン)
この品数の多さ、そして豊富な種類の野菜たち!
いったいどんな定食が出てくるのだろうとわくわくしながら注文。
道に面した大きな窓からは、明るい光が差し込んでくる。本棚には10月から「陽文庫」の古本が並べられており、気に入ったものを購入することもできる。
メニュー表の最後には、発酵食品のいいところを解説した手書きのページが。「ごはん屋ななつぼし」では地元の素材と発酵食品にこだわったごはんを提供しており、厨房から漂ってくる味噌や麹、醤油の匂いが食欲をどんどんかき立てていく。

さて、お待ちかねの「ななつぼし定食」がやってきた。一つひとつの盛りつけやうつわの愛らしさ! どれから食べようかと頭を悩ませながら、いただきます。
ずずず、と味噌汁をひと口。お味噌の豊かな香りがふんわりと鼻に抜けていき、つるむらさきのとろりとした食感が口の中で程よい後味となって、うまみを引き立たせていく。その余韻を味わいながら、玄米をぱくり。ああこれはもう何杯でも食べられてしまう。
しかし、おかずと玄米のマリアージュも気になるのだ。心を鬼にして、次のおかずに手をつけた。
ポテトサラダは、播磨特産じゃがいも「はりまる」の特徴である甘みとねっとりした食感が際立ち、大人も子どもも大好きなお味。モロヘイヤのお浸しは味付けこそシンプルだが、それが独特のねばりと茎のシャキシャキ感によく合い、これもごはんが進む。
何よりときめいたのは、青なすと大豆の豚つくね焼きだった。箸を入れると、ふわっとした感触が手に伝わる。いそいそと口に運べば、うまみが口いっぱいに広がって、ついつい声が漏れ出てしまった。
つくねに添えられている夏野菜の絶妙な焼き加減や、かぼちゃの冷製ポタージュの優しさもゆったりとお腹にたまっていき、最後は露地メロンでごちそうさま。こんなにたくさんの野菜をおいしく味わえるなんて、と満たされた気分になった。

実店舗をオープンしたのは2020年4月1日。だが、藤井さんはそれ以前にもレンタルキッチンなどで出店し、ごはんやおやつなどを提供してきた。その活動は10年ほど前から続けているのだとか。
「もともと福祉施設の栄養士をしていたので、人にごはんを出すのは日常的なこと。それを自分の活動としてお客さんに出すのは、好きにできることが多くて楽しいですね」
厨房で働く仕事が合っているのだと言いバンダナをかぶって厨房へ入る彼女は、いきいきとした目でほころぶような笑顔を見せてくれた。

「地域の野菜は、おいしいんです。だからその味を壊さないように、素材の味をきちんと感じられるようなお料理にしたいと思っています」
藤井さんの眼差しがきらりと光る。地元加西の野菜は、おいしい。それを伝えたいという想いは、食材生産者の心までのせて確かに料理へと宿り、食べた人の心を豊かにしていく。
使用する野菜は地元の農家から仕入れており、すべて生産者の顔がわかるようになっているそうだ。これは自分のやりたいことの一つだった、と笑う藤井さん。
作った人の顔がわかると、それだけ食材にも地域にも愛着がわくもの。ただ消費するだけでは得られない“おいしさ”が、そこにはあるのではないだろうか。

1日25食の定食が売り切れてしまうことも多いという「ごはん屋ななつぼし」。だが、藤井さんはこの実店舗を出すという話を一度断ったのだそう。
それでも今こうしてお店を構えていること。そして、そこにたどり着くまでの物語には、藤井さんの実直な人柄と強い意志が隠されている。
→ ごはん屋ななつぼし #02 をお楽しみに。
<店舗情報>
店名:ごはん屋ななつぼし
営業時間:11:00~15:30
定休日:月・土・日曜
所在地:加西市北条町横尾171-1
駐車場:有(無料)
電話番号:0790-43-7244
予約:可
SNS:Instagram